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童貞・非モテ大学生時代のリビドー日記書庫

モテない×勝てない×イケメンには。

大門雄輔は追い詰められていた。
「てか仕事中にアドレス聞くのとかないだろ、ありえんわ」
図書館のお姉さんに一目惚れした彼は、図書館に通い始めること2ヶ月。
自制心を失ってしまい、彼女のメールアドレスを手にいれるために暴走し、失敗したのだった。
なんとか精神的に持ち直した彼は再び一利用者として図書館に通うようになったのだが、彼女への思いは未だに諦めきれていなかった。
というかはっきりいってまだ大逆転があるんじゃないかと思っている節がある。というか思っていないと生きていけない。


彼は仕事中にとあるマンガを読み、欝に入った。
イケメンイケメンと騒ぎ立てるクソ女共に対する耐性はある程度出来ていたものの、
イケメンであり、才気にあふれながらも、恋に、仕事に、自分に悩む同年代の男子の姿は彼の心を揺さぶった。
イケメンが憎い。いや、羨ましい。


「顔が悪けりゃ口で勝負すればいいんだけど、お前はそれもダメだもんな。」


こんなに不幸なんだから、少しくらいお金になってもいいんじゃないか。


「ブサイクも限度を過ぎてブサイクならブサイクモデルになったり、逆にモテたりするんだろうけど、お前は本当に中途半端に不細工だからな。」


どないすればええんじゃ。


過去の痛々しい思い出がフラッシュバックする。あぁ、あぁ、あぁ、ああぁぁぁぁあ。
恥ずかしい消えたい死にたいどこかに行きたいでも死にたくない忘れたいていうかわすれてというかもうおれなんて居なかったことにしてくださいとまんまんまん、穴が開いてるよ上から数えて1,2,3入れるときには2番目でぇ、ひねる出すときゃ三番目、じょろりと出すのは1番目じょばじょばじょばじょば女の穴〜穴〜というか尿道と膣ってどっちが上だっけ?おしえてください、代わりに乳毛を上げるから〜♪
そうだ、死のう。死のう。でも怖い。そうだ手首を掻き切ろう。


リストカットと言う言葉を聞くとどうも頬が赤くなって、恥ずかしくてたまらない感じがする。
流行でカジュアルな感じと、うわぁイタイ感がどうしてもぬぐい去れない。


そもそも、自分とイケメンの差を埋めるためにはリストカットぐらいじゃ生ぬるい。
リストカットで得られる御手軽な悲壮感じゃ逆効果にしかならない。
プフッ
とどこからか嘲笑失笑が聞こえてきたような気がする。
どないすればええねん。


大門雄輔はホームセンターに行って鉈を購入した。
あとは家にある物で事足りる。
まず、マ○○リーを飲む。
この入眠導入剤は、服用後もすぐ床につかず、覚醒状態を維持しているとテンションがハイになるという副作用がある。
うまく説明できないが、ハイになった時の自分と、普通の自分とは別の人間のような感覚になるので、とても便利です。
ベルトで右太ももの付け根あたりを縛り、鉈を当てる。
そしてその上に電子レンジを何度も何度も叩きつけた。
その最中思い出したのは、とある女の子のことだ。
彼女の名前は忘れてしまったが、そのあだ名は未だに覚えている。
高校1年の時。世界史の授業で先生が黒板消しをハンドアックスに見立てて、一番前の席に座っていた彼女に向かって振りかざした。
それ以降彼女のあだ名はハンドアックスだ。そのふくよかな体を支えるために鍛え上げられたそのふくらはぎは、旧石器時代人を思い起こさせた。
鮮血を吹き出しながら胴体から離れた右肢のふくらはぎは、ハンドアックスさんのそれよりも細く、ちっぽけだった。


ベルトはきつく締めたはずだったが、太ももからは大量の血液が吹き出ていた。
バスタオルで止血を試みたが、一向にその勢いは止まらず、真っ赤に染まったバスタオルが何枚も何枚も重なっていった。
飛びそうになる意識の中で携帯電話を手にとり、199番を押した。
「救急ですか?消防ですか?」
「救急です」
「どうされました?」
「悪手とは言えないまでも正着ではない防御が招いた結果血が止まりません、助けてください。」
万が一くっ付いてしまうと困るので、救急車が車での間、切り離した右肢はガスコンロでコンガリ焼いてしまった。


数週間後、晴れて退院した僕は望みどおり右肢のない体になっていた。
義足という選択肢もあったのだが、服の上からではわかりにくいので車椅子を選択した。
もうすぐ、待ちに待った彼女との再会だ。


バリアフリーが行き届いた最新の図書館は車椅子初心者でも容易く動き回れた。
3階の一般図書コーナーを一回り。居ない。
とするとやはり4階の視聴覚コーナーにいる可能性が高い。
館内専用のエレベーターにのりこみ4階へ。
テーブルが並べられた中央の読書席を横目に、視聴覚コーナーへと進む。
居た。彼女だ。静かに近づいて
「あ、あの、お久しぶりです。」
こちらに背を向けて、最近返却されたDVD棚に向かって陳列をしているショートボブの女性に声をかけた。
「えっあっお久しぶりです、一体どうしたんですか?」
戸惑う彼女を見ながら彼は、
車椅子だと彼女の方が背が高いから見上げる感じになるんだな、なんてことを思った。

「ちょっと事故にあっちゃいまして。右肢なくなっちゃいました。」

「それは・・・とても大変でしたね・・・でも、命だけは助かってて本当によかったです。」
彼女はとても可哀想なものを見たような、泣きそうな顔をしていた。
そしてその顔は心からの同情と哀れみをたたえていた。

「で、ですね・・・僕、こんな体になっちゃったんですけど、やっぱりあなたのことが好きです。メアド交換してください。」

彼女は、一瞬ハトが豆鉄砲を食らったような顔をして、そして少しの間、といっても彼にとってはとても長い時間に感じられたのだが、悩んでこう言った。
「ご、ごめんなさい・・・規則でそれはできないんです。本当にごめんなさい。」


  • 結末A(今週の週間少年ジャンプを読んで居ない人はこの後の結末Bまで飛ばしてください。)

気がつくと大門は見たこともない場所へ来ていた。
日はとっくに暮れ、人通りの無い道路は街灯も少なく、辺りはほとんど闇に包まれていた。
何時間も車椅子を押し続けた腕の筋肉はパンパンに腫れ上がり、真っ赤になった顔からは湯気が立ち上っていた。


我に帰った彼は携帯電話を取り出し、現在位置を確認しようとGPS機能を作動させようと画面を開いた。
その刹那、彼の左腕に鈍い痛みが走った。
白い光が宙を舞い、ドサっという水の入った革袋が落ちたような音に続いて、カラカラっと軽い金属が地面にぶつかる音が聞こえた。
右腕で左肩に触れると、左腕の存在が感じられなかった。
音が聞こえた方に振り返ると、こちらを睨む二つの目が光っていた。
携帯電話のバックライトが照らし出したその正体は、巨大な猫。正確には雌のライオンだった。


そういえば数日前、動物園から雌のライオンが逃げ出したというニュースがやっていた。
腹をすかせたライオンは人を襲うかもしれないので気をつけてください。
そう報道したニュースキャスターの作りもののようなやけに深刻そうな顔が脳裏に蘇った。
そのライオンが捕獲、または射殺されたという続報は聞いた覚えがない。


「クソッ・・・」
ライオンの瞳は未だコチラを睨んでいる。
片腕だけじゃ物足りない、お前を喰らい尽くしてやろう。
そんな言葉が聞こえてきそうだ。


「調子に載ってるんじゃねぇぞ!」
(左腕がなければ祈れないとでも?祈りとは心の所作。心が正しく形を成せば想いとなり 想いこそが実を結ぶのだ)
「誰か助けて!神様助けて!」
大門の放った凄まじい気迫に、ライオンは一瞬戸惑い、後ずさった。


その一瞬の隙をついて地面に落ちている携帯電話に飛びついた。
「俺は一人じゃない」
画面を開いてボタンを三回プッシュする。1・1・0。


「人間をなめるんじゃねぇぞ、ムファサ・・・」


携帯電話の画面の左上には、赤く圏外のマークが輝いていた。


  • 結末B

「ご、ごめんなさい・・・規則でそれはできないんです。本当にごめんなさい。」

教訓。ブサイクは片足を失ったところでイケメンに匹敵することはできませんでした。ちゃんちゃん。