dotei.tgz

童貞・非モテ大学生時代のリビドー日記書庫

新作古典落語『オリエント工業』

「清川くん、最近大門くん全然シフト入れてないんだけどどうしたか知ってる?」
「なんかずっと体調不良だって聞きましたね」
「体調不良?風邪か?」
「いや、なんかよくわからないんですけど、ここ三日ほど全然様子見ないですね」
「そりゃあ心配だなぁ・・・ちょっと様子見に電話してみるよ」


プルルルル プルルルル


「おかしいなぁ、でないなぁ・・・」



プルルル、ガチャ

「ただいま、留守にしております。御用の方は発信音の後にご用件をどうぞ」


ピー


「あっもしもし?大門くん?病気だって聞いたけど電話出られないくらい酷いの?大丈夫?」


ガチャ


「お?出た?もしもし、大門くん?」
「はぁ・・・」
「ん?風邪か?いい若いもんが風邪くらいで三日も休んじゃだめだよ。ハァハァハァ言ってないで病院行ってすぐ治して。それとも病院行けないくらい酷いのかい?そっち行こうか?」
「店長・・・すみません・・・僕の病気は医者や薬じゃ治らないんですよ・・・」
「医者や薬じゃなおらない?ってことは自分の病気がなんだかわかってるんだ?よかったら教えてくれない?なんて病名だい?」
「僕の病気はね・・・お医者さまでも草津の湯でもってんですよ!」
「ずいぶん長い病名だねぇ。ってどこかで聞いたことあるなぁ」
「お医者様でも草津の湯でもって・・・もしかして恋?」
彼女いない歴=年齢で一生童貞を心に誓っていた大門くんが恋煩いって・・・驚いたなぁ・・・で、一体どこの誰が相手だい?」
「店長にそう聞かれると・・・なんか僕申し訳なくて・・・その・・・」
「私に申し訳ない?・・・もしかしてバイトの子?誰?佐伯さんならだめだよ、彼氏いるから。え?違う?」
「違いますよ・・・実は僕、最近本読んでるんですよ。」
「あぁ、そういえば最近夢野久作がどうだとかバイト中に話してたねぇ・・・つくづく中二なやつだなぁって思ってたよ」
「陰でそんな事思ってたんですか!」
「まぁまぁまぁ、いいじゃない。で?それでどうしたの?」
「・・・まぁいいですよ、でね、中央図書館あるじゃないですか、最近改装して綺麗になった。」
「おぉ、市民会館とかカフェとかもあるでっかい綺麗な良い図書館だね。」
「で、この前、本を借りようと思ってカウンターに持っていったら、そこに可愛い職員さんが居たんですよ。そのお姉さんに惚れちゃったんです。」
図書館のお姉さん?あぁ、水曜日は夜番で金曜日は朝番でよく視聴覚コーナーにいるあの子かな?ショートのボブカットで外側に軽くウェーブした髪型の。」
「よく知ってますね、僕ですらシフトまでは詳しく知らないっていうのに。」
「そりゃもう、あの図書館で一番可愛いからな。声も態度もめちゃくちゃ優しくて癒されるって評判だよ。」
「そうですか・・・そりゃそうですよね・・・あんだけ可愛けりゃ有名にもなっちゃってますよね・・・」
「しかしまぁ、あんな美女に惚れちまったのか」
「駄目だとは思ったんですよ、僕みたいな三角コーナーの生ごみのような僕が高嶺の花だ、って・・・でも諦めきれないんですよ」
「何をしてても彼女の顔が頭に浮かんで、仕事にも遊びも手に付かないんですよ」
「何うじうじ言ってるんだよ、惚れたんだろ?じゃあ行けよ!すきだって行ってこいよ!」
「でも、僕みたいな童貞がつきまとったらストーカー罪で逮捕されてしまうんじゃ・・・」
「確かに、君は大学中退のフリーター、オタクで口下手、器量も悪いし腹も出てる。貯金もないし、良い所なんてひとっつもない。」
「耳が痛いです・・・」

「そこでだ、諦めずに働くんだ。お金貯めて良い服買って、おしゃれして、それからお姉さんにアタックするんだ。」

「それでなんとかなりますかね?」

「そりゃわからん。だけど私もうまく行くようにできるだけ便宜を図ってやろうとは思ってるよ」

「いくら貯めれば良いですかね?」

「そうだなぁ・・・50万、いや、100万。できるだけ多く貯める。1年間みっちり働いて、その貯金を元手に指輪なりなんなり買えば良いさ」

「100万貯めればお姉さんを彼女に出来るんですね!?」

「断言はできないが、まぁ、今よりは確率は上がるだろうな」

「じゃぁ僕働きます。今すぐバイトでます。」


とまぁそうと決まれば早いもので、それから大門は休みを返上して毎日働きました。
彼女のためだと思えば仕事の上達も早く、みるみるうちに成長し、バイトリーダーになって時給も上がって
店長はまた一人使えるバイトが出来たと喜んで、先程の約束などすっかり忘れさっていました。
そしてあっという間に時は流れ、1年の月日が経ちました。


「おはようございます、店長。今月の給料もらいに来ました。」

「おお、今日は給料日だったね。はい、今月の給料。今月も頑張ったね。」

「ありがとうございます。ひぃふぅみぃよぉ・・・っとはいっ、確かに受け取りました。これでようやく貯金が100万円になりました。」

「人は変わるもんだね、数年前までは親のスネをかじって生活するダメニート大学生だった君が、100万も貯金をしたのか・・・おめでとう」

「ありがとうございます!」

「おめでとうついでにも一つお目出度いお知らせだ。大門くん、正社員にならないかい?」

「へ?正社員ですか?」

「君の働きっぷりを社長も評価してくれてるんだ。君には期待しているよ。それでだね、君は今年ずっと働き詰めだったから長期休暇をあげるよ。
お母さんと旅行にでも行って、たっぷり親孝行してきなさい。そして旅行から帰ったら正社員としてウチで働いて欲しい。」

「ありがとうございます。是非ともよろしくお願いします。」

「うんうん、よかったよかった。」

「で、ですね、一年前の約束を果たして欲しいんですが・・・」

「約束?なんだっけ?」

「忘れたんですか!100万円貯めたら図書館のお姉さんとお近づきになれるって!店長そういったじゃないですか!」

「ああ・・・そういえばそんな約束した記憶があるな・・・すまん、完全に忘れてた。」

「酷いですよ!このためだけに仕事頑張って貯金したんですよ!あんなババアと旅行なんてするために100万貯めたんじゃないんです!」

「わかったわかった。わかったから落ち着いて。しかし私にコネなんてないからなぁ・・・」

「嘘ついたんですね!ふざけないでくださいよ!もう俺告白してきます!」

「あぁ・・・そうだ、私の知り合いに藪井竹庵という人がいて・・・ってもう行ってしまった・・・」



「お姉さん、好きです。」「ごめんなさい。」「すみませんでした、このことは忘れてください!」


逃げ帰った大門はバイトにもいかず、家にひきこもるようになりました。
そしてインターネットでとある出会いを果たします。
オリエント工業ラブドール、凛との出会いでした。
図書館のお姉さんと付き合うために貯めた貯金をすべてはたいて
オリエント工業の高級ラブドールを購入した大門は二人で幸せに暮らしたと言う、古典落語からの一席でございます。